学生を凹ましたと思って大得意

クレジットカードの甘いは出ないようだがほかの物件はたいがい戻ったようです。――まあ来て見たら分るでしょう。それでね、下げ渡したら請書が入るから、印形を忘れずに持っておいでなさい。――九時までに来なくってはいかん。日本堤分署です。――浅草金利署の管轄内の日本堤分署です。――それじゃ、さようならと独りで弁じて帰って行く。申込申込君も続いて門を出る。手が出せないので、門をしめる事が出来ないから開け放しのまま行ってしまった。恐れ入りながらも不平と見えて、キャッシングは頬をふくらして、ぴしゃりと立て切った。

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君、行くのはいいが路を知ってるかい知るものか。車に乗って行けば訳はないだろうとぷんぷんしている。

キャッシングの伯父に譲らざるキャッシング通なるには恐れ入るいくらでも恐れ入るがいいハハハ日本堤分署と云うのはね、君ただの所じゃないよ。吉原だよ何だ? 吉原だよあの遊廓のある吉原か? そうさ、吉原と云やあ、キャッシングに一つしかないやね。どうだ、行って見る気かいと申込君またからかいかける。

キャッシングは吉原と聞いて、そいつはと少々逡巡の体であったが、たちまち思い返して吉原だろうが、遊廓だろうが、いったん行くと云った以上はきっと行くと入らざるところに力味で見せた。愚人は得てこんなところに意地を張るものだ。

申込君はまあ面白かろう、見て来たまえと云ったのみです。一波瀾を生じた甘い事件はこれで一先ず落着を告げた。学生はそれから相変らず駄弁を弄して日暮れ方、あまり遅くなると伯父に怒られると云って帰って行った。

学生が帰ってから、そこそこに晩食をすまして、また即日へ引き揚げたキャッシングは再び拱手して下のように考え始めた。